
「オレさ、空がおかしくなった時のこと覚えてるんだ。
　つーか思い出したって方が正しいんだけど」

場所は来賓用だという屋敷の居間。
葉月さんが持ってきてくれた遅めの昼ごはんを食べながら、佐奈ちゃんが話してくれた。

「みんな正気じゃなくなってさ、父さんも追いかけてきてさーー
　オレを、完全にそういう目で見ているのが、わかってさーー
　だから、嫌だったんだ。
　父さんのせいじゃないのかもしれないけどさ、今は、一緒にいるなんて、ムリで……」

それ以上は言わなくていい。
溌剌としていた佐奈ちゃんがこんな顔をするぐらいなら、黙って良い。

「大丈夫、解決するまでこっちにいればいいわ。
　安心してーー私、これでも結構強いから」

アラカの言葉は本当に頼もしい。
実力に裏付けされた確かな自負のある言葉の重さ。

「そっか……　ありがとな、お姉さん。
　あの時も助けてくれたし……
　それに、お兄さんも」

「え？　いや、うん……
　どうにかしようとはしたけれども……」

僕ができたのは数秒で撥ね飛ばされただけで、正直言っていてもいなくても変わらなかっただろう。
端的に言って何も出来ていない。

「まあ、あんまり役にはたってなかったよねー」
「はい……」

子供らしい容赦のなさが突き刺さる。
そんなあっけらかんと言わなくても。

「でも、ありがとな！
　オレ、お兄さんもいてくれて心強いよ！」

「……うん、僕も頑張るよ」

まあ、こう思ってもらえるなら、擦り傷を作ったのも無駄ではなかったのだろう。

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「……さて、それじゃこれからどうするかを相談しましょうか。
　事情聴取は有耶無耶になっちゃったし、残る二人に話を聞きに行く以外にも、村に何があるかも確認したいしね」

残る容疑者は、佐奈ちゃんと作家さんを除けば二人。
村の外れで畜産をしているというお爺さんの甲斐さんと、佐奈ちゃんのお父さんーー修一さんの二人だ。

だが、あの様子では修一さんは話を聞いてくれるかは怪しいだろう。
サイコメトリーを仕掛けられれば良いのだが、その機会があるかわからない。

となればーー

「まずはあのお爺さん、甲斐さんに話を聞きに行く？
　修一さんとゴタゴタしてるうちに、何も言わず帰っちゃったみたいだけど……」

逃げるようなその態度は怪しい気もするけれど、僕もアラカも彼の普段の言動なんて知らないのだ。

であれば、佐奈ちゃんに聞いてみるのが手っ取り早い。

「あー、甲斐の爺さんはあんまり人と話したりしないからなぁ……
　基本いつも一人で畜舎にいるか、お参りに行ってるかだし、割といつもあんな感じだよ」

「お参り？　もしかして、神社があるの？」

「うん。あっちの山の方にお社があってさ。
　この村の守り神とか、畑や家畜の神様とか言ってたっけ。
　まあ甲斐の爺さんと、あとはうちの父さんぐらいしかお参りになんて行ってないけど……
　ええと、ヤナハク様だったかな……」

ほんの僅か、アラカの表情がゆらいだ。

「佐奈ちゃん、甲斐さんを探すためにもその神社に案内してもらいたいんだけど、いい？」

「ん、オッケー！　今から行く？」

「準備があるから、少しだけ待ってて。
　キミ、ちょっと手伝って」

わかっている。
佐奈ちゃんを残して隣の部屋に行く理由。
万一のためーー佐奈ちゃんが『犯人』である可能性の配慮。

佐奈ちゃんには僕の能力も伝えていない。
『犯人がいる』という曖昧な認識だけで話を進めさせているのは、あちら側に捜査の状況を悟られる要因を減らしたいからだ。

「……ヤナハク様、ね。資料で見たことがあるわ。
　この辺りで一時期隆盛した土着信仰……
　五穀豊穣と子孫繁栄だけでなく、当時まだ一般的でなかった畜産への恩恵があるとされた珍しい信仰、だけど……」

言葉に含みがあるーーいや、わかっている。
そもそも退魔師であるアラカが『資料』で見ているのだ。
それはつまりーー

「秘密裏に女性の奴隷化や生贄の儀式を行っていたことが発覚して、時の幕府に滅ぼされた……
　いわゆる、邪教よ」

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「なー、やっぱ都会だと遊園地とかあるんだよな？
　あとデッカいビルの上にレストランとかさ！
　そんで、夜も明るいんだよな！」

「遊園地はそんなに沢山は無いけれど……
　高層ビルはたくさんあるわね。夜もだいたい電気がついてるから、路地裏にでも行かない限りは光源はいらないくらいには明るいし」

「すっげえ……！　お姉さんたちはそっちに住んでるんだよな！？
　どんなとこなんだ！？」

社に向かう山道の途中、佐奈ちゃんは目をキラキラさせながら都会の話をせがんでいる。
この村から出たことがないという佐奈ちゃんにとって、僕らは憧れの場所からやってきた来訪者なのだろう。
少し気が落ち着けばいくらでも聞きたいことがある、その様子は無邪気で、とてもーー彼女が容疑者であるとは僕には思えない。



『佐奈ちゃんのお父さん、修一さんがヤナハク様のこと正しくを知っていた場合、佐奈ちゃんはヤナハクの巫女の可能性があるわ』

屋敷を出る直前、アラカはその懸念を告げていた。
巫女であれば当然、佐奈ちゃんは犯人であると考えるのが自然だ。
そしてもう一つの可能性、僕にとってはより可能性が高く感じられる危険性。

『巫女でなければーー生贄の可能性がある』

ヤナハク様は、生贄を求めるーー
それも、単に命を捧げさせるわけではない。
生贄は少女、その胎と肉を貪り、陵辱の限りを尽くして尊厳の一欠片まで啜り食らうのがヤナハク様という邪神の在り方だと、アラカは言った。

『どちらにしても要警戒対象よ。
　巫女であればこちらを容疑者だし、贄として育てられたならばーー真っ先に『収穫』されてもおかしくない』

そんな彼女を連れて社に行くというのは、当然危険を伴う。
端的に言って何が起きてもおかしくない。

アラカの張った世界の法則は完璧ではないのだ、相手の力が強ければそれは当然のように綻び、崩れ、侵食されていく。

『私は佐奈ちゃんに張り付いて警戒してる。
　佐奈ちゃんが不審な動きをしても、佐奈ちゃんが襲われてもどちらも対応できるように、ね』

『その間、キミは周囲の探索をして欲しい。
　危険だけれどもーー頼める？』

頷いた。
向こうの本拠地である可能性が高い以上、調査しないなんてあり得ない。
アラカの張ったルールが侵食されているかどうかだけでも確認する必要があるし、なんなら『犯人』より先に大元を断てるチャンスかもしれないのだ。

『……少しぐらい躊躇って欲しいんだけど。
　キミの異能は悪霊が狙う理由としては十分すぎるの。そういう自覚をちゃんと持って。
　いい、怪しいものを見つけても決して一人では接触しないこと。
　何か見つけたとしても私が来るまでサイコメトリーは勿論、声を発するのもダメ。
　問いかけに返事するのなんて絶対やらないように。
　……約束して』

何故か心配されてしまったが、別に僕だって好き好んで危険な真似をするつもりはない。
今こうやって社に向かって歩く途中も、ちゃんと物陰に気を配って慎重に歩いているつもりだ。

「おせーぞお兄さーん。
　疲れたなら休むかー？」

「い、いや、大丈夫……　すぐ行く……」

だから、こうして二人に遅れているのも決して息が上がったわけではない……
というか、あの二人が足が早すぎるだけな気がする。

「ほらほら、がんばれがんばれー。
　オレを守ろうとしてくれた時は結構足早かったろー？」

笑顔で応援されては、その時に全力疾走したから足がつらいとは言えない。
というかアレだけ走ったのにピンピンしてる佐奈ちゃんの体力が僕は驚きだ。
逃げていた時も成人男性になかなか捕まらないほどに足も早かった。

「うん、ちょっと待ってて……
　というか、佐奈ちゃん足早いね……」

「ん？　まあオレはクラスじゃ一番足が速いからな！
　男子にだって負けないんだぜ！」

健康的に日焼けした笑顔で言うのを見れば、いつも外で走り回っていることは窺える。
運動神経も良さそうだし、納得だ。

佐奈ちゃんぐらいの年頃ならまだ男女差もあまりないだろうし、あれだけ発育が早い上に運動神経が良いとなればクラスでは敵なしだろう。

「すご、いね……
　いや本当……」

「というかオレはお姉さんの方に驚きだけど。
　お姉さん、スポーツ選手とかなの？
　歩いてるだけでもなんかめちゃくちゃ足早そうなんだけど」

「ん、職業柄鍛えてるってだけで、スポーツ選手ってわけじゃないわ。
　ほら、捜査は足が基本だからあちこち歩き回るしね」

「へー……！　すっげえ……！
　なあ、やっぱり滝壺に落ちたりとかしたことあんの！？」

「まああるけれども、それは探偵の一般的なイメージとは関係ないんじゃないかな……？」

あるんだ……
まあアラカは退魔師の修行として山伏みたいなこともしているから、それで落ちたんだろうけど……

ーーまた、何かを思い出しかけた。
でも、それはまだ遠い。
ーー思い出さなければいけないのは、もっと後のこと。

「はい、お疲れ様！
　やっと追いついたねー」

「ごめんごめん、それで、社は……」

聞く必要はなかった。
近づくまで気が付かなかったのがおかしいぐらいに堂々とした鳥居、広く開けた参道、その奥には小さくも手入れの行き届いた本堂があり、ここが目的地であることは明らかだった。

「これが……　ヤナハク様の社」

アラカの声色に警戒の色が滲む。
ここからは一切の油断ができないという厳戒態勢。

（警戒して、この敷地、私のかけた呪術が綻びかけてる）

小声で告げられる内容は、やはりこの場所に何かがあることを裏付けている。
そして、アラカは佐奈ちゃんから目を離すわけにはいかないだろう。

（僕が先に本堂の方に行ってみる。
　アラカはまず入り口あたりを）

探索をするのは僕の役割だ。
屋敷を出る前に行っていた通り。

（……まずは、本堂の周りを一周してみて。
　中には入ろうとしないこと。
　何か見つけても一人では触れたり、話したりしないで）

一つ頷いて歩き出す。
佐奈ちゃんが訝しむのをアラカが誤魔化すのを後ろに聞きながら、本堂に上がる階段の前に立つ。

階段を上って本堂の扉の中を伺いたいところだがーーまずは、アラカの言う通りこの周囲を一回りして見るべきだろう。
後ろを見れば、アラカが佐奈ちゃんと一緒にこちらを見ている。
一つ頷いて、歩き出す。

本堂を右手に見ながら、敷地の境目になっている茂みを調べながら歩く。
何もない、何もないはずなのに、ひどい違和感がある。
まるでコンクリートのような地面、樹木は朽ち果てたテーブルのようで、石ころは算盤に見える。

片っ端からサイコメトリーをするべきかと思い、アラカからの忠告を思い出して堪える。
何かを見つけても、僕一人でいる時には触れたり声を発したりはしないと。

そのまま、本堂の裏側へと踏み込む。

ーー日差しが遮られた空間、薄暗く、ここだけは昼ではなくなったようだ。
本堂と、鬱蒼とした茂みに挟まれたごく僅かな空間。
まるで夕暮れの、薄ぼんやりとした明るさの中。

ーーそこには、アラカがいた。

「……さっきぶりね？
　それとも、久しぶり？　きっとどちらでも間違っていないでしょうけど」

ーー逢う魔が時、その言葉を思い出す。

アラカは入り口の方にいたはずだ。
一瞬でこんな場所にまで、それも佐奈ちゃんを放置しているはずがない。
何よりも、その佇まいが違う。

「……ふーん？　思ったよりも驚かないのね？
　つまらないの。
　やっぱり慣れちゃったのかしら？
　初々しいのははじめだけなのね？」

言葉の一つ一つが、仕草の一つが艶かしい。
指先一つすら色気を漂わせている、その姿があの凛々しいアラカであるはずがーー

「そんなことは、ないわ。
　女の子なんだもん。
　柔らかくていやらしい肉をほじくり返されて、丁寧に丁寧に蕩かされて、泣いちゃうぐらいに強く叩かれてーー　それで悦んでしまう、浅ましい雌、恥ずかしいマゾの、オンナの身体をーー　貴方は見たでしょう？」

息が甘い。
唇が触れそうなほどの距離で、アラカの顔をした彼女が囁く。
脳みそをくすぐられるような掻痒感、鼻腔から頭に雌が染み込んでいる。
ズボンの前が痛い、酷く勃起している。
今すぐ叫んでしまいたい。

「……無視するなんて、ひどいと思わないの？
　ま、仕方ないか。
　アラカに言われているものね、返事をしてはいけないって」

アラカ、その名前を聞いた時、モヤのかかったような頭が目を覚ます。

なぜそれを知っている！？
もしかして屋敷での会話を聞かれていた！？
いや、それともーー

「あー、違う違う、さっき入り口で話してたじゃない。
　大体、私達はアラカの声ぐらいは聞こえて当然」

そんなに焦らないでよ、なんてため息を吐かれる。
その姿は、さっきまでの妖しい姿とは似ても似つかないほどに無邪気だ。

「ま、でも無視されてるのはちょっと怒っちゃったから……
　意地悪、しちゃうね。
　良いことを教えてあげようと思ったけれども、だーめ。
　教えてくださいって、お兄さんがハッキリと言ってくれないと何も言わない」

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選択肢

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「ーーほんと、つまんない。
　ま、いっか。まだ精々2回目とかだろうし。
　ふふふ、楽しみにしてるね、お兄さん？」

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「ふふふ、よくできました。
　……それとも、これは3回目だった？」

この選択が正しかったかはわからない。
ただ、なんとなくーー
ここで選択を間違えれば、決定的に過つのだと予感があった。

「アラカは気が付いてないかもしれないけど、今はとっても弱ってるの。
　だから、装備はとっても大切。
　もしも何にも持っていない時に襲われたりしたらーーね？」

悪戯めかした言い方だが、それは警告だ。
装備を持っていない時、それは例えば、入浴時だろうか。

「まあ、素直に言っても聞かないかもね……
　だとしたら、柵に切れ目があるって教えてあげると良いわ。
　今晩だけのはずだし、ね」

＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝

「ん、そろそろ時間ね……
　こことは相性が悪過ぎてーーいや、良過ぎて？
　基本的には外に弾かれちゃってる状態みたい。
　ふふふ、見物はできるみたいだから構わないけどね？
　あったかもしれない、まで見れるのだもの。退屈はしないわ」

あったかもしれない、IFの可能性、あり得た過去。
何故かその言葉がやけに気になる。

「……ふふ、そうそう、忘れちゃダメよ？
　こっちでまた会える日、楽しみにしてるんだから」

言葉を残して、アラカの姿をした『誰か』は消えた。

彼女がなんだったのかはわからないけれど、それでも何となく、今僕らが追っている相手とは違うんだろうなと言うことだけはわかっていた。

＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝

「祟りじゃ！　あのヨミという女は、ヤナハク様の祟りにあったんじゃ！！」

「ええ、ですから詳しいお話をーー」

「お主らもじゃ！　こんな風に踏み込んで、祟りがあるぞ！」

この声は、甲斐さんーー容疑者の一人であるお爺さんだ。
何か叫んでいるが、これはチャンスだ。
サイコメトリーをすれば犯人かどうか、かなり絞ることができる。

「おいおい爺さん、落ち着けって……
　あんま叫ぶなよ……」

「佐奈ちゃんや、お前さんもそろそろ自覚をすべきじゃ……
　もうすっかり、育ったからのう……」

本堂の裏から飛び出た時は、ちょうど佐奈ちゃんが一歩後ずさったところだった。

「母親もよく育っとったが、年頃を考えると佐奈ちゃんは本当に偉い……
　うむ、うむ、きっとヤナハク様も喜んでくださる」

言葉は少ないけれども、その意図は余りに明白だ。
セクハラなんて生やさしいものじゃない、明確に佐奈ちゃんを雌としてーーいや、孕ませて産ませて搾り取るための肉として見ているーーそういう視線。

「こ、のっ……！」

走り出す。
大した距離じゃない、筋肉痛は無視だ。
佐奈ちゃんを庇える位置どりを目算しながら一気に駆け寄ってーー

「セクハラは、犯罪よ」
「あいたたたたたっ！？」

その前にアラカが腕を捻り上げていた。

「な、何をするかあっ！？　あいたた、いたっ」

「当然の対応をしているだけ。
　顔見知りだとしても言ってはいけないことはいくらでもあるでしょう」

「お、お姉さんすげえ……
　早くて見えなかったぜ……」

佐奈ちゃんはもはや驚き過ぎて妙な感動をしている。
とはいえーー拘束できたのは色々と都合がいい。
僕もそのままみんなのところに駆け寄る。

「あ、お兄さん……
　えーと、止めたほうがいいかな？」

気持ちはわかるけど、それは少し後にしよう。

「は、離さんかい！　年寄りを労らんか！
　あ、ああ、わかったわかった！　佐奈ちゃんに謝るから、あいたたた」

甲斐さんの弁明を無視しながら、アラカが空いている方の手で甲斐さんの肩あたりを指差している。
ここを触れということだろう。

……というか、サイコメトリーさせるために拘束したとかじゃないよね？
まあ甲斐さんが犯人でなかったとしたら、このまま拘束し続けるのも気の毒だ。
手早くやろう。

「うん、まあ、お爺さんも悪かったですねこれはーー」

適当に声をかけながら右手を伸ばす。
同時に、アラカの右手が触れる。
触れた指先から流れ込んでくるアラカの霊力を、右手で変換ーー肩の先、甲斐というこの老人の中を、探るーー

＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝

アラカ　薬壺

＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝

「っつ、あーーーーー！！！！！？！？！！」
「お兄さん！　お兄さん！！　ねえ！　しっかり！！」

自分が絶叫していることはわかる。
佐奈ちゃんが必死で身体をゆすりながらよびかけている。
なのにそれを認識する自分と肉体が結びつかなくて、呆然と自分を見下ろしている。

ーー頭の中では、アラカの無惨な姿が繰り返している。
なんだアレは、あんな恐ろしくて悍ましくて冒涜的な行為、女性を何かに見立てて性と尊厳を陵辱し尽くすように『使う』だなんてーーどこかで、見覚えが

「佐奈ちゃん、ちょっとどいてもらえる……？」
「お姉さん！　大丈夫なの……！？　あ、そうだ、お兄さんが！！」
「ええ、私は大丈夫。
　まずは彼を治しましょう」
「よ、よかったぁ……
　オレ、こういう時どうすりゃいいかわかんなくて……」
「大丈夫、こういう時は……　ふんっ！」

「ぶごえっ！！？
　げほっ、ごほっ……」

目が覚めた。というか覚まされた。
あとお腹がめっちゃ痛い。

「え、ええー……
　そんな、壊れたテレビじゃないんだから……」
「単に殴ったわけじゃなくて、丹田に気をねじ込んだんだからちゃんとした賦活法よ。
　……で、大丈夫？」

「あ、ああ、うん……　なんとか……
　って、そうだ！　アラカ！！！」

そうだ、アラカはーー無事だ。
腕もある、脚もある、無事、無事だーー！

「よ、良かった……」
「……まあ、無事よ。ちょっと応えたけどね」

よく見ればアラカの顔色はかなり悪い。
僕と手を重ねた状態でサイコメトリーを使ったから、一緒に同じ記憶を読み取っていたのだろう。

いや、そもそもアレは何だ？
実際に甲斐さんが体験した記憶であるならば、アラカが今こうして無事であることがおかしい。
そもそもアレは本当に記憶なのか？　いや、甲斐さんから読み取ったものなのか？　もしかしたらこの場所によるもの……  いや、さっきの謎めいたアラカの顔をした『誰か』によるものか？
いったい、なにから考えればーー


「……なあ、二人とも何なんだよ。
　爺さんに触ったら二人して叫びながらぶっ倒れちゃってさ。
　オレもめちゃくちゃビビったんだぜ？
　お姉さんが起きて来なかったら爺さんと一緒に逃げちゃおうかと思ったよ……」

「あー……」

どうやら、まず考えるべきは誤魔化し方のようだ。

